Seminar 2017 / セミナー情報2017

Towards reduction of autocorrelation in HMC by machine learning

2018年2月9日(金) 15:00 @H524
Speaker: 富谷 昭夫 氏 (CCNU)

Abstract:
格子QCDは、QCDの様々な性質を探る有用な手法である。そこでの物理量の期待値は、 マルコフ連鎖モンテカルロを用いて評価されるが、配位間の長い自己相関が近年問題となりつつある。 自己相関が長くなると、統計数が有効的に減少し、 統計誤差を減らすためにはより長い計算時間が必要となる。 本研究では、代表的な配位生成アルゴリズムである、 ハイブリッドモンテカルロ法(HMC)と機械学習の手法、特に制限ボルツマンマシン、を組み合わせた 新アルゴリズムを提案し、3次元φ4乗模型に応用する事でアルゴリズムの可否を調べた。 1点関数、2点関数、作用を対称相、破れ相、そして臨界領域について調べた結果、 対称相および破れ相での1点関数、2点関数、作用は、元のHMCと無矛盾な結果を与えた。 一方で、ヒストグラムを確認すると、ずれが確認された。さらに臨界付近では、HMCと 矛盾する結果が得られた。本発表では、機械学習の基礎、とくに生成模型の解説から 本研究の結果に至るまでを議論し、さらにずれの原因や解決法、将来への展望を述べる。 本公演は、arXiv:1712.03893 に基づく。

RHIC-STAR実験における高次キュムラント測定の現状

2017年11月22日(水) 13:30 @H524
Speaker: 野中 俊宏 氏 (筑波大学)

Abstract:
高エネルギー重イオン衝突実験において、QCD相図を解明することは、非常に重要なゴールの一つである。 2010年、2011年および2014年には、RHIC加速器において、QCD相構造を探るためのビームエネルギー走査実験(BESI)が行われた。STAR実験では、臨界点探索のために、net-proton分布の高次キュムラントが測定され、ビームエネルギーに対する非単調な振る舞いが観測された [1]。一方、現在の解析手法ではバックグラウンドに対する補正が充分でないとの指摘があるのも確かであり、2019年から開始されるBESIIに向けた解析手法の開発が急務である。本セミナーでは、STAR実験における高次キュムラントの解析手法について述べた後、現在開発が進められている、体積揺らぎや検出器効果の補正方法について議論する。 [1] Xiaofeng Luo (for the STAR collaboration), Proceedings, 9th International Workshop on 16 
Critical Point and Onset of Deconfinement (CPOD 2014), Vol. CPOD2014 (2015)

相対論的重イオン衝突初期における早いエントロピー生成

2017年10月18日(水) 13:30 @H524
Speaker: 築地 秀和 氏 (京都大学)

Abstract:
RHIC、LHCでの相対論的重イオン衝突実験における流体模型の成功は生成される 物質が衝突後0.6-1.0 fm/cという極めて早い時間で局所熱平衡に達することを示 唆しており、その機構を解明することは理論的に興味深い課題である。衝突直後 には多数のグルーオンがコヒーレント状態を形成しており、第一近似として古典 ヤン-ミルズ場としての扱いがよいと考えられている。さらに古典ヤン・ミルズ 場は初期の量子揺らぎに対して不安定性を持つことが知られているため、揺らぎ の起源となる量子効果を何らかの形で取り入れることが重要である。 そこで我々はウィグナー関数の半古典的な時間発展を数値的に計算することで量 子揺らぎを初期の波動関数の広がりとして取り入れた解析を行った。その結果、 静止系でのヤン・ミルズ場の理論においてであるが、初期条件を空間的に一様な コヒーレント状態とした場合[1]と衝突直後に有効であると考えられている McLerran-Venugopalan模型による配位のまわりのコヒーレント状態とした場合[2]に、 伏見関数から定義されるHusimi-Wehrlエントロピーが生成することを確認した。 また、この増加率と古典系でのカオス性の指標であるKolmogorov-Sinai rateと 比較することで、エントロピー生成の機構とカオス性との関係についても 考察を行った。エントロピー生成は、衝突後1.0 fm/c程度で起こっており[2]、 非常に早いエントロピー生成が起こることが確かめられた。より定量的な提言を 与えるために、膨張系での最近の結果についても触れる予定である。 Reference: [1] H. Tsukiji, H. Iida, T. Kunihiro, A. Ohnishi, and T. T. Takahashi, Phys. Rev. D94, 091502(R) (2016). [2] H. Tsukiji, T. Kunihiro, A. Ohnishi, and T. T. Takahashi, arXiv:1709.00979.

Global inconsistency, 't Hooft anomaly, level crossing in quantum mechanics

2017年8月18日(金) 13:30 @H524
Speaker: 菊池 勇太 氏 (京都大学)

Abstract:
't Hooftアノマリーは対称性のゲージ化の障害であり、場の量子論(QFT)がIRで自明に実現される可能性を排除する。 Global inconsistency条件は最近提案された新しいゲージ化の障害で、't Hooftアノマリーと同様、IR理論に制限を課すが、 't Hooft anomalyと異なりIR理論が必ずしも非自明になるとは限らない。 この新しい条件の性質を明らかにするために、トポロジカル項を持ついくつかの量子力学系を議論する。 実際に系のエネルギースペクトルを顕に計算することで、't Hooftアノマリーまたはglobal inconsistencyが原因でエネルギー縮退が生じることを確認する。

ニュートリノー重陽子反応からのパイオン生成

2017年7月28日(金) 13:30 @H524
Speaker: 中村 聡 氏 (Universidade Cruzeido do Sul)

Abstract:
約30年前、ニュートリノー重陽子反応からのパイオン生成データから ニュートリノー核子反応からのパイオン生成の断面積が引き出された。以来、パイオン生成の 模型を作る時にはこのデータを再現しているかどうかが必ず検討事項になっている。 しかし最近問題になり始めたのは、ニュートリノー重陽子反応データからニュートリノー核子反応の 情報が引き出された際、終状態相互作用が考慮されていなかったことである。 30年来用いられてきたニュートリノー核子反応からのパイオン生成断面積のデータは、 終状態相互作用の効果の分だけ、補正されなければならない。 このセミナーで紹介する私たちのグループの最近の研究では、 終状態相互作用を考慮されたパイオン生成を伴うニュートリノー重陽子反応模型を構築し、 終状態相互作用の効果を調べた。そしてニュートリノー核子反応からのパイオン生成断面積を ニュートリノー重陽子反応断面積から抽出する上で、終状態相互作用の効果を考慮するかしないかで どの程度の違いが現れるかを検討した。

汎関数くりこみ群によるスペクトル関数の計算及びそのQCD臨界点における低エネルギーモードの振る舞いの解析への応用

2017年7月14日(金) 13:30 @H524
Speaker: 横田 猛 氏 (京大)

Abstract:
本講演では、汎関数くりこみ群(FRG)による中間子のスペクトル関数の計算、及びその手法を用いたQCD臨界点におけるソフトモードの解析について述べる。 FRGは場の理論における非摂動的な解析手法である。近年、この手法による実時間の量に関する解析が進んでいる。特に、クォーク・中間子模型における中間子スペクトル関数の計算手法がTripoltらによって開発された[1]。 我々は、この手法を用いて、シグマチャンネル、及びパイ中間子チャンネルにおけるスペクトル関数を計算し、QCD臨界点におけるソフトモードの解析を目指した。QCD臨界点におけるソフトモードは、カレントクォーク質量がゼロの場合と有限の場合で全く様子が異なると考えられており[2, 3]、興味深い研究の対象である。解析を行った結果、QCD臨界点の近傍でシグマ中間子モードがタキオニックになるという振る舞いを発見した[4]。このことはQCD臨界点近傍で系が非一様相に相転移するということを示唆しているのかもしれない。尚、手法と結果についてレクチャーノートとしてまとめた物を参考文献[5]として挙げる。 我々はこのタキオニックモードの起源にさらに迫るために最近カレントクォーク質量を変えた場合の計算も行っているが、講演ではその結果についても述べる。
[1] R.-A. Tripolt, N. Strodthoff, L. von Smekal, and J. Wambach, Phys. Rev. D89, 034010 (2014), arXiv:1311.0630 [hep-ph]; R.-A. Tripolt, L. von Smekal, and J. Wambach, Phys. Rev. D90, 074031 (2014), arXiv:1408.3512 [hep-ph].
[2] H. Fujii and M. Ohtani, Phys. Rev. D70, 014016 (2004), arXiv:hep-ph/0402263 [hep-ph].
[3] D. T. Son and M. A. Stephanov, Phys. Rev. D70, 056001 (2004), arXiv:hep-ph/0401052 [hep-ph].
[4] T. Yokota, T. Kunihiro, and K. Morita, PTEP 2016, 073D01 (2016), arXiv:1603.02147 [hep-ph].
[5] T. Yokota, T. Kunihiro, and K. Morita, Lecture note for ERG2016 (2016), arXiv:1611.06669 [hep-ph].

高エネルギー原子核衝突実験研究の基礎、話題、展望

2017年5月26日(金) 13:30 @H524
Speaker: 志垣 賢太 氏 (広大)

Abstract:
宇宙は開闢直後に膨張冷却に伴い様々な対称性を自発的に破りながら現在の物質状態に辿り着いた。 この歴史を実験的に遡って、対称性が存在した極初期宇宙状態を再現し、上記のシナリオを実証(あるいは反証)可能だろうか。 そのおそらく唯一の現実的可能性が、高エネルギー原子核衝突を用いたクォーク・グルーオン非閉込相の実験研究にある。 米国 RHIC 加速器における同相発見から CERN LHC 加速器における最新知見までを俯瞰し、 当該分野の基礎知識から近年注目を集める話題、LHC ALICE 実験を軸に今後の展望までを、 可能な範囲で技術的側面も含めて議論したい。