Seminar 2011 / セミナー情報2011
クォーク・グルーオン・プラズマ中におけるJ/Ψの量子散逸過程
2011年12月20日(火) 14:00 @H524 Speaker: 赤松 幸尚 氏 (名古屋大) Abstract: クォーク・グルーオン・プラズマ中の重いクォークの束縛状態は、有限温度におけるカラーの非閉じ込めを反映しており、 理論的にも実験的にも盛んに研究されてきた。 ポテンシャル描像に基づく束縛状態のアプローチは物理的な理解が得やすいが、 最近の格子QCD計算や摂動計算によると、ポテンシャルは有限の虚部を持つことが明らかになった。 本発表では、有限温度におけるポテンシャル描像に熱揺らぎからくる確率的側面を取り入れた、 確率的シュレーディンガー方程式によるアプローチを紹介し、それに基づく束縛状態の記述を提案する。
重い中間子の崩壊過程を用いたシグマ中間子構造の研究
2011年11月22日(火) 14:00 @H524 Speaker: 星野 紘憲 氏(名古屋大) Abstract: u,d,sクォークから構成される軽いスカラー中間子は、2クォークおよび4クォー ク状態が混合したエキゾチックハドロンであることが示唆されて います。 我々は$¥sigma$中間子の構造を、$D_1 ¥to D¥pi^0¥pi^0$崩壊過程から調べるた めに、 カイラル対称性、U(1)$_¥text{A}$対称性とその破れ、および重いクォーク対称 性から構成した有効模型を用いて解析を行いました。 この模型として2および4クォーク状態の場による線形シグマ模型を考えると、 これらの状態が混合する事に$¥sigma$中間子が実現されます。 我々はまず$¥sigma$中間子の質量および$¥sigma$-$¥pi$-$¥pi$結合定数を、アイ ソスピン$I=0$, S波$¥pi$-$¥pi$散乱のデータから決めました。 次に$¥sigma$中間子が含む2クォーク状態の割合に対する$D_1^¥prime ¥to D ¥pi^0¥pi^0$微分崩壊幅の振る舞いを予言しました。 この結果から、将来の実験データによって$¥sigma$中間子の構造を理解できると 期待できます。
エネルギー走査実験によるQCD相図の探索とバリオン数ゆらぎ
2011年11月15日(火) 14:00 @H524 Speaker: 北澤 正清 氏 (阪大理) Abstract: RHICにおいて昨年から、相対論的重イオン衝突実験の衝突エネルギー 依存性を詳細に調べるプロジェクト「エネルギー走査実験」が 始まっている。重イオン衝突の衝突エネルギーを変化させると、 生成されるクォーク・グルオン物質のバリオン数密度を変えることが できるので、この性質を利用して温度・密度平面におけるQCD相構造を 実験的に調べることがこの計画の主目的である。 ただし、この実験で得られる観測量から相構造の情報を抜き出す 作業は非常に難しく、実験データが日増しに蓄積する現在でも この目的を達成するための明解なシナリオは示されていない。 本研究では、高次モーメントを含めたバリオン数ゆらぎがQCDの 相構造を反映して特徴的な温度密度依存性を示すため、この物理量が (もし実験的に観測できれば)エネルギー走査実験の目的を達成する ための有力な候補となることを説明する。 その一方、RHICの検出器は荷電中性なバリオンを観測できない ため、バリオン数ゆらぎは直接的な観測量ではない。 本研究では、重イオン衝突で生成された高温物質中における バリオンの時間発展を考察することにより、検出できなかった 中性バリオンに関する欠損した情報を補完し、観測にかかる 陽子数のみを用いてバリオン数ゆらぎのモーメントを実験的に 導出する関係式を導出する。 この関係式により、理論、実験、そして格子QCDによる予言を バリオン数という共通の物理量で比較することが初めて 可能となる。本講演では、そのインパクトを論じる。
高温フェルミオン・ボソン系における新しい低エネルギーフェルミオン的励起
2011年8月2日(火) 14:00 @H524 Speaker: 佐藤大輔 氏 Daisuke Satow (Kyoto U. / 京大) Abstract: 有限温度(T)におけるボソン・フェルミオン系(湯川模型、 QED、QCDなど)のフェルミオンのスペクトルの解析は、系の基本 的な構成要素 であるフェルミオンの粒子描像の解明という観点からきわめて重要である。特 に、QCDにおけるクォークスペクトルはクォーク・グルー オンプラズマを理解す る上で重要な量である。 上に挙げたボソン・フェルミオン系において結合定数をgとおくと、gT程度のエネルギー領域においてはHard Thermal Loop(HTL)近似と呼ばれるダイアグラムを用いた解析手法が現在確立されており、その解析の結果ノーマルフェルミオンおよびプラズミーノと呼ばれる集団運動が出現する [1]。 さらに、HTL近似はVlasov方程式と等価である事が知られている [2]。 一方、<< g^2T 領域のダイアグラムを用いた解析はピンチ特異性と呼ばれる赤外発散のために困難であったが、我々はこれを除去する手法 [3]を用いて新しいフェルミオン的励起を発見し、その分散関係などの表式を得る [4]。 その手法においては、粒子の熱質量および崩壊幅の足し上げが、ゲージ理論の場合はさらにladderダイアグラムの足し上げが行われる。 さらに、その手法に対応する新しい運動論的方程式をKadanoff-Baym方程式から導出する。 その結果ダイアグラムを用いた方法における熱質量、崩壊幅の足し上げは、運動論的方程式においてはHTL近似において無視されていた衝突項に対応することが判明する。 また、ゲージ理論において必要となったladderダイアグラムの足し上げは、外力の補正項に対応する事がわかる。 また、ダイアグラムを用いた方法においてはスペクトルのゲージ依存性の解析が困難であったが、今回我々が導出した運動論的方程式はゲージ依存性が明確な形式で構築されているため、その解析が容易である。 このことを利用して、以前我々がダイアグラムの方法を用いて見つけた極およびその留数のゲージ依存性に関しても議論する。 参考文献 [1] H. A. Weldon, Phys. Rev. D 26 2789 (1982); ibid. 40 2410 (1989). [2] J. P. Blaizot and E. Iancu, Phys. Rev. Lett. 70, 3376 (1993). [3] V. V. Lebedev and A. V. Smilga, Annals Phys. 202, 229 (1990). [4] Y. Hidaka, D. Satow and T. Kunihiro, arXiv:1105.0423 [hep-ph].
数値シミュレーションで探る素粒子論
2011年7月26日(火) 15:00 @H524 Speaker: 深谷英則 氏 FUKAYA Hidenori (Osaka U. / 阪大) Abstract: 私たちの身の回りの物質はクォークとグルーオンいう素粒子から成っており、 そのダイナミクスは量子色力学(QCD)で記述されることがわかっている。 しかし、QCDは非常に強い結合力を持つため、 そのふるまいを解析的に調べることは困難である。 本講演では、QCDをコンピュータを用いた数値シミュレーションによって 解く研究について、最新の結果も交えて紹介する。
格子QCDにおける逆伝搬関数を用いた実時間関数の解析
2011年6月21日(火) 14:00 @H524 Speaker: 北澤正清 氏 Masakiyo Kitazawa (Osaka U. / 阪大理) Abstract: 格子QCDによる数値シミュレーションは、QCDの非摂動的性質を 第一原理的に解析することのできる現時点で唯一の解析方法として 広範な研究対象に適用され、多くの成果を挙げている。 しかし、この手法による解析は数値的な理由によりEuclid空間上で遂行されるため、数値解析の結果から系の動的性質、すなわち実時間 関数を抽出する作業は一般には極めて難しい。 この問題は特に有限温度において顕著であり、格子QCD上における有限温度系の動的性質の解析を十分な信頼度をもって行うためには この問題を改善することが重要な課題となる。 実時間関数の解析においては、通常スペクトル表示により虚および実時間伝搬関数を結びつける式が単独で用いられる。 本研究ではこの表式に加え、逆伝搬関数の解析性から得られる 関係式を実時間関数の解析に用いることを提案する。 また、格子上で計算されたクォーク伝搬関数にこの方法を適用することにより、手法の妥当性について論じる。
量子スピングラスにおける相転移と動的相関
2011年6月7日(火) 14:00 @H524 Speaker: 高橋和孝 氏 Kazutaka Takahashi (Tokyo Institute of Technology / 東工大) Abstract: スピングラスの古典論は少なくとも平均場の範囲においてはほぼ完全に理解されている。 代表的な模型であるSherrington-Kirkpatrik(SK)模型はレプリカ法を用いて完全に解かれている。 しかしながら、そのような系でも横磁場をかけるなどして 量子効果をとりいれると途端に解けなくなる。 横磁場SK模型に関する解析は古くからあるが多くは古典論に基づいた解析が主であった。 一方で、絶対零度における量子スピン系の相転移は基底状態と第一励起状態のエネルギーギャップを見ることで理解される。 そのような観点から量子スピングラスの相転移を見たとき、不規則性はどのような効果をもたらすであろうか。 本講演では量子スピングラスの相転移についての解析を概説する。
Lambda(1405) in chiral dynamics and related topics
2011年5月31日(火) 14:00 @H524 Speaker: 兵藤哲雄 氏 Tetsuo Hyodo (Tokyo Institute of Technology / 東工大) Abstract: The Lambda(1405) baryon resonance plays an outstanding role in various aspects in hadron and nuclear physics. It has been considered that the Lambda(1405) resonance is generated by the attractive interaction of the antikaon and the nucleon, as a quasi-bound state below the threshold decaying into the pi Sigma channel. Thus, the structure of Lambda(1405) is closely related to the Kbar N interaction which is the fundamental ingredient to study few-body systems with antikaon. In this seminar, after reviewing the basic properties of the Lambda(1405) resonance, we introduce the dynamical coupled-channel model which respects chiral symmetry of QCD and the unitarity of the scattering amplitude. We show that the structure of the Lambda(1405) resonance is dominated by the meson-baryon molecule component and is described as a superposition of two independent states. We also discuss the recent progress in the study of the meson-baryon interaction and the structure of Lambda(1405). reference: T. Hyodo and D. Jido, arXiv:1104.4474 [nucl-th]
格子ゲージ理論を用いたグルーオン物質の輸送係数の解析
2011年5月10日(火) 14:00 @H524 Speaker: 河野泰宏 氏 Yasuhiro Kohno (Osaka U. / 阪大理) Abstract: RHICでの重イオン衝突実験において、クォーク・グルーオン・プラズマ (QGP)に対する完全流体描像の成功が知られている。RHIC以上の高温 が実現されるLHCでは、粘性が大きくなるとの摂動計算の示唆からQGPの散逸流体描像の重要性が予想される。 一般に1次の散逸流体力学(1次 の理論)は因果律を破ることが知られている。一方、1次の理論を拡張した2次の理論は 因果律の問題を回避することができるが、1次の理論には含ま れなかった新し いパラメータ(2次の輸送係数)が複数含まれており、これらは微視的な理論 (重イオン衝突ではQCD)により決定されるべき非負の 物理量である。 今回のセミナーでは、QGP・重イオン衝突・散逸流体力学を概観し、格子ゲー ジ理論を用いたグルーオン物質の2次の輸送係数の解析結果について議論する。